永遠のゆく先へ #23「建前」 「友達ごっこは……終わりにしましょう?」 宙に浮かびながら、少女は言い放つ。 「アンタたち用済みなんだってね」 「用済み……?」リカは訝しむ。 「アンタたち、利用されてたのよ。気づかなかったの?」 「利用って……どういう意味!?」カナタは問い詰める。 「アンタらが世界中を飛び回って手に入れたやつよ。おかげでずいぶん集まったみたいね」 「エレメントのことか……」リカは顔を手で押さえる。 「もう十分集まったから、ここに呼び込まれたのよ。それでこれから処分されるってワケ」 「ねえ、そもそも何なの? エレメントって……」カナタは問う。 「さぁ? そんな呼び方してるのもアンタたちだけ」 「存外何も知らないみたいだな……用済みってのはどこで聞いたんだ?」今度はリカが問う。 「私を閉じ込めた奴がそう言ってた」 「閉じ込められてたのか……? なぜ」 「なんで答える必要があんのよ」 そう言って、少女は空中を動き出す。 カナタが叫ぶ。「何をしようとしてるの!?」 少女はバリアに近づき、そこに閉じ込められている、トワを指さす。 「こいつを、殺すの」 「なぜ!?」カナタはさらに強い剣幕で問う。 少女はわざとらしく拳を握る。 「だって……許されないことをした。こいつのせいで、何回も命が弄ばれた」 リカは尋ねる。「それは……あいつがクローンの元になったからって意味か?」 すると少女は、驚く様子もなく答える。「……ふん、知ってたんだ。そう。こいつは……」 言いかけた相手を、カナタが遮る。「トワっちはただの被害者でしょ!」 「……どうしてそう言い切れるの? あいつの罪はまだ……」 喋らせまい、とカナタは被せる。 「うるさい! あの子に手を出すつもりなら、そんなのあたしが絶対許さない」 必死のカナタを、少女は鼻で笑う。 「この組織についてどこまで知ったのか知らないけど……一つ言っておく。アンタたち、私に殺される方がはるかにマシよ」 「……殺されてたまるかよ」構えるリカ。 「そんなに試したいなら、味わわせてあげる……」 少女は両手を前に突き出し、全身を広く発光させる。何らかの白い球体が少女の前に生成され、成長していく。 少女は鋭い目つきでリカを見たかと思うと、急に振りかぶってその弾を投げつける。すかさずリカは跳び上がって避けた。弾が当たった床は焼け焦げて白煙が上がる。少女は続けて、別の方向にもう一発。カナタに向かって進んで行く。カナタも跳んで避ける。 「ちょこまかと……」少女は今度はマリを睨む。 「ひッ」足がすくむマリ。少女はマリに向かって球を投げつける。うまく飛べなきゃ死ぬ。それも、本格的にエクステンダーを使うのは初めてなのに。うまくいくのか……? 飛べ! たどたどしいジャンプだが、一応避けることには成功した。だが、少女が腕を振り上げると、弾は床に当たる寸前で軌道を変更して上へと進む。 「あぶないっ!!」トワはとっさに力を使い、遠隔でマリを横に突き飛ばした。弾は天井にぶち当たり、ドシンという大きな振動音を鳴らす。 「おっ……!?」直後、カナタはバランスを崩してゆっくり落下していく。 「ああっ!!」トワは叫び、カナタを支えるが、今度はリカがよろめく。 「そんな人数で扱えるようにはできてないのよ……」 エレメントを使えば4人が同時に力を使えるようになる。だが、合計は1人分。おまけに、攻撃方法もない。 だだっ広い部屋に、敵とトワ、そして普通の女子高生3人。床には、機動部隊員たちが何十人も倒れている。 「邪魔だわね……こいつら……」 彼女は片手から黒い球体を発生させ、それを床に掃除機のように滑らす。あっという間に隊員たちは吸い込まれ、消滅する。 またひとつ恐ろしいことが起きた。圧倒的な相手だ。これまで勝てたのは、ずっとまぐれだった。でも今は、正面から殴り合うしかない。 「ねえトワっち」カナタがトワに見返り、呼びかける。 「トワっちが攻撃できないなら、代わりにあたしがやるから」 さっきの恐竜時代で、攻撃しようとしたトワは動揺していた。失われた記憶の中に、何かしらのトラウマがあるのかもしれない。 「あたしに力、貸してくれる?」 「……」トワは若干間をおいて、言った。「はい」 カナタは何度もいろんな向きで手を合わせ、それを試みる。「火の玉ってどうやって作ればいいのぉ?」 少女は嘲笑する。「馬鹿ね。何も知らないのはそっちじゃない。いくら冒険ごっこを続けようとね……」 しかし次の瞬間から、周囲の砂ぼこりがカナタの手の中に集まっていき、やがて小さな炎が現れた。 「こうかな!?」 「そんなはずは……」少女は二度見し、動揺した。 調子に乗るカナタ。 「よし!! いける!!」火球はゆっくりと、だが着実に大きくなっていた。 リカは焦る。「おい、大丈夫か? 反動とか……」 カナタは手を振るわせる。「アッツ……いけどいける!! 耐えれるレベルだから!!」 そして唱える。「嵌〜め〜ら〜れ〜た〜〜〜〜〜!!!!」 放たれた弾は、一目散に相手の元へ飛んでいき、大爆発。 カナタは、自分が何をしたのかよくわからず目をパチパチさせていたが、やがて誇らしげに「ど、どうだ〜!」とガッツポーズをマリに見せた。 だが、煙が消えると、少女は無傷だった。 「バリアを出すまでもないわ」 そう言うそばから少女は左手を上げると、小指が逆側に折れ曲がっていた。ぞっとするカナタ。 「チッ……」すると、少女はもう一方の手でそれをつまんで元に戻した。まるで瞬間接着剤をつけるかのように数秒おくと、小指は完全に元通りになった。 「結局、また改造に助けられたわ」 「改造……」引っかかり、リカが口を挟む。「あんな大怪我したのにすぐ戻ってきたのも、改造のおかげか?」 地下の研究室での戦いで、自爆して足を失っていたはずなのに、さっきの恐竜時代では完全に復活していた。 「ふん……そうだけど?」 「ツーとスリーも巻き込まれてたよな……あいつらはどうした!?」 「あいつらはまだ療養中。再生能力が低いってのも大変ね。あんなの足手まといよ」少女はめんどくさそうに答える。 「友達じゃないの!?」とカナタ。 「あいつらは友達なんかじゃない。命令されたから、一緒に仕事をしてただけ」 「命令……これも命令か? 命令されればなんでもやるのか!?」 彼女は答えず、バリアの中のトワを指さす。 「見なよ、あの姿。鳥籠に囚われて、ただアンタたちに力を差し出すだけ。命令に従うだけの奴隷よ」 トワは憂いを帯びた表情で仲間たちを見た。 「友達を持った結果が、命令されるだけなんてね」 少女は続ける。「私はもう命令に従うのはやめた。組織は従わせたかったみたいだけど。脳改造までしてね」 「それで……何をするの……?」カナタは尋ねる。 「罰を与えるの。命をおもちゃみたいに使い捨てるこの組織と、その元凶のこの女に。それがみんなの望みだから」 「みんなって?」 「私を生み出すために造られた、無数のクローンたちよ。組織のモルモットになるためだけに生まれて、電気を流されたり、ゴミを食べさせられたりしている」 少女は目を細める。「皆恨んでいる。こんなことになったのは全部あいつのせいだってね」 しかし、カナタは何かの違和感に気づいたようだ。「そんなのおかしい」 少女は彼女を睨む。「……どこが」心なしか、動揺しているように見える。 「本当は罰なんてどうでもいいんじゃないの?」問い詰めるカナタ。 「……違う。今だって、残虐の限りを尽くした実験が……」 「もう実験は行われてないよ」 「は?」考えられない、という表情で見下す少女。 「あんた、クローンたちの代弁者みたいに言ってるけど、本当は何も知らないんじゃないの?」 「そんなわけ」否定する少女。 「お前……知らないだろ。私達が会ったクローンの一人は、トワの幸せを願ってたぞ」 「ありえない……」言葉に詰まる少女。トワも目を見開く。 「……いや……」少女は少し逡巡してから、口を開いた。ついに本性を露わにする。「……そうよ」 少女は、ハハハと、しばらく高笑いをした。 「……どうでもいいわ。あんな失敗作たちのことなんて」どことなく、愉悦に浸ったような声色で。 「心の底からどうでもいい。何か問題ある?」 「……建前だったんだな」リカが指摘する。 「だったらなぜトワを殺す!?」カナタはまだ問い詰める。 すると彼女は、また少し余裕さを失いつつも、言った。 「……私は自由なの! 何をしようが勝手でしょ!」 「というか、お前もクローンなんだろ? 同情とかしないのかよ」 リカが尋ねると、少女は高く飛び上がる。 「私はあいつらとは違う。ただの人間であるあいつとも、他のどの失敗作とも違う、完成品なの。誰よりも強い力を出せる。足が折れても、一週間もすれば繋がる。何より……」 少女は微笑む。「私には名前がある」 リカは口を差し挟む。「……フィーネ、か?」 相手はまた調子を狂わされたという感じで言う。「なぜ、その名を……」 「あのチェーンソーの人から聞いた」とカナタ。 「あいつ……失敗作のくせに、一丁前に仕切ろうとしている」 「お前、会ってたのか……」だからこそ、彼女はフィーネの名を知っていたのだ。 「私に楯突いたから、軽くひねってやったわよ。ゴミ溜めではおとなしくしてもらいたいものね」 「ひどい……」怒りが溢れ出るカナタ。 「その人なんだぞ。トワを想っていたのは」とリカ。「会ってたならそう言ってたはずだろ」 「……あんなやつの考えてることなんてわかんないわよ。心の底では憎んでるかもしれない」 「ク……」歯をギリリと食いしばるカナタ。 「まあいいわ。アンタらに知られたところで何の意味もない。そもそもアンタらに用はないのよ」 フィーネは再び、トワの元へとゆっくり接近する。 「まずい……」カナタは先回りしてバリアの前に向かった。 「そこをどきなさい」 「いや……だ……」カナタはバリアにくっついて、少しでもトワと触れあおうとする。 フィーネは片手を突き上げる。「いいわ。望み通りにしてあげる。一生被検体として過ごすより、ずっとマシだものね」 「一生……被検体……?」カナタは繰り返す。 「意外って顔ね。組織の実態を知ってれば、容易に想像できたと思うけど」 フィーネは今度は腕を左右に広げる。エネルギー弾が生成されていく。周囲に地震のような振動が発生する。 「そもそも今の私は、こんな場所一瞬で吹き飛ばすことができる……」 緊迫感が走る。 「何とかして止めないと……」カナタは再び火球を作ろうと手を合わせる。だが、何も起こらない。 「そううまくはいかないだろ、とりあえず、何かに隠れろ……」リカは言うが、カナタは諦めない。 「トワっち! もっと力貸して!」 だが、トワは生返事。「はい……」 いくら試しても、一向に火球ができる気配がない。 フィーネの体長を遥かに超えたエネルギー弾を持ち上げながら、彼女は笑う。 「フン……大人しく殺される気になったみたいね」 カナタは再び叫ぶ。「そんなはずないでしょ!」そう言って振り返ると、バリアの中のトワは頭を垂れて悄然としていた。 「トワ……っち……?」カナタは目を見開く。 トワは口を開いた。 「……もう……いいんです……」 「は?」思わず声が出るカナタ。 「……もう……私は……」 トワは語り出す。「……私が悪いんです。全部。フィーネさんの言う通り、私さえいなければ、こんなことには」 「何……言ってるの?」とカナタ。 「クローンの方たちが苦しんでるって聞いて……私がいなければそんなことも、マリさん、リカさん、カナタさん、皆さんをこんな危険な目に巻き込むことも」 「そんな……」とカナタ。 「私は、消えるべきなんです。存在してはいけなかったんです。皆さんと過ごせて……私、幸せでした。これ以上なんて……もう」 そう言って、トワは身体を発光させはじめる。 「おい、何やって……」とリカ。 「皆さんを外に帰します。私はこの檻から出られなかったけど、皆さんに力を貸すことはできた。皆さんを外に出すことならできるかもしれない」 「だめ!」カナタは悲しげな顔で答えた。「皆で帰ろうよ!? ねえ!?」 「騙されるな! クローン皆が恨んでるなんて嘘だ! 私たちは見た!」リカも叫ぶ。だが、トワは目を逸らす。 すると、マリたちは自分の身体が動かないことに気づいた。 「まさか……お前が止めてるのか?」とリカ。 「さっそく仲間割れみたいね!」フィーネはうれしそうに冷笑する。「アンタらにはお似合いの末路よ」 マリは、時空移動の時にいつも感じている、身体が裏返る感じを少しずつ覚え始めていた。 トワは、涙ながらに笑いかける。それは、悲劇的ながらもどこか卑屈な笑顔だった。 「みなさん、さようなら……お元気で」 (続く) ---------------------------------------- - タイトル: 永遠のゆく先へ #23「建前」 - 著者: 千本槍みなも@ナタクラゲ - 作成年: 2026 - URL: https://blog.natakurage.cc/articles/towasaki-023 - ライセンス: CC BY-SA 4.0