あるいは運命だったのかもしれない。
8/28
なぜ生きねばならないのか。生きるのは義務なのか?権利なのか?どちらでもないと思う。ただ「生きている」から「生きている」それだけ。
9/1
劣情はなぜ「劣った」というのだろう。宗教的価値観? まあもう自分には関係ないことだ。 やる気を出すためのやる気もなくなり、考えはまとまらない。考える必要のないことばかり考えてしまう。というか本当に考えているのか?何もかも感情論にすぎないのではないか。この頭から感情という回路を摘出できたらいいのにといつも思う。
9/4
人身で大遅延。酔っ払いなら勝手に死んどけって感じだが、自殺の可能性もある。調べればわかるかもしれないが、そんな気力はない。なぜなら自分も連日の長時間移動と時間的拘束に気が滅入っているからだ。
9/5
大変なことが起きた。人身事故を目撃してしまった。 ホームに様子がおかしいセーラー服の女の子がいた。明らかに震えていた気がする。その時は素通りしたが、気にせず先頭に並んだ。その後だ。電車がやってきたと思うと、ガリガリゴロゴロという音が連続で鳴り響いて、電車が止まった。 現場は騒然となった。すぐに血腥い臭いが立ち込めてきた。肉片を見てしまったらしき人の悲鳴も聞こえてきた。その場を立ち去る人もいた。 血の気は引きつつも、興味本位でホーム下を覗いた。そこにあったのは何だと思う?
おっぱいだ。
一瞬目を背けた。そして再び見た。見間違いじゃない。確実に乳房だった。胸部に実った2つのふくらみ。乳首もちゃんとついていた。首と脚はついてなかったが。
なんの偶然だろう。こんなことってあるのだろうか。都合よく衣服が剥がれ、その部分だけが都合よく無傷だなんて。 親以外のそれを実際に見たことはなかった。もう一生目にすることはないと割り切っていたものを、こんな形で。とんでもないものを見てしまった。
全身の血液がほとばしるのを感じた。ブルーシートが到着するまで生臭さなど忘れ見入ってしまった。その後振り替え輸送でいきり立ったまま 大学に行ったが授業などなにも耳に入らなかった。 帰った後、ベッドに座って目を閉じた。あの光景が浮かんできた。車輪でちぎれた首と脚のない胴だけのあの身体。 正直不快感もあった。辺りに散らばった腕や肉片、血液。血と内臓の悪臭。だがそれらをもってしても、あの裸体の魅力をかき消せるものではなかった。 そのまま衝動的な欲望に身を任せる。
罪悪感。人が死んだんだぞ。しかも自殺だ。それなのになぜ……
衝動から醒めていくとともに、あの身の毛もよだつような脚の断面だけが頭の中を覆っていくようになった。
それでも
今日ほど視力が2.0だったらよかったのにと思うことはないだろう。
9/6
今日は休日。いたって普通の休日だった。
ネットで人身事故について調べてみた。それによれば電車に正面からぶつかるのはタイミング的に相当難しく、大抵は轢かれて死ぬようだ。その場合電車の下部の構造に跳ね飛ばされながら何度も車輪で轢断され、しかも首を切られない限り、失血死するまでの間、数分間は意識があるという。地獄のような痛みの中で、血の臭いを嗅ぎながら、自らの身体がバラバラに切断されるのを見届けるというのだ。
9/8
あの時のホームは何事もなかったように電車を待つ人で溢れていた。途中あの時と同じ制服を着た女子が見えたような気がする。
彼女はなぜ線路に飛び込み、何を思いながら死んだのか。首が切れたなら即死だっただろう。でも肢が先に切れていたら……。死ぬくらいの苦しみを受けてきたのに、なぜ最後にわざわざこの世の地獄を味わわなければならなかったのか。 死ぬなら人に迷惑をかけずに死ね、という奴もいるが、今から死のうという人が他人のことなど考えている余裕はあるのか。むしろそんな冷たい言葉で自分を追い込んだ社会への復讐なんじゃないか。 正直なところ、一歩間違えればあれは自分だったかもしれない。自分は飛び込みなんてしない、とはどうしても言い切れない。同情してしまうのも、自分も"そっち側"だからかもしれない。などと、知りもしない人の境遇を勝手に想像し、自分と重ね合わせる。
ホームの下をのぞいたが何もなかった。
9/14
この頃はもうあれが日課になっている。すなわち駅のホームにいる制服を着た女子生徒の後ろに立ち、この子が落ちたらどうなるかという妄想だ。不謹慎なのはわかっている。だが頭が勝手に考えてしまうのだ。
9/16
さすがに露骨すぎたか。女子生徒に変な目で見られた気がする。周りの視線もあるしこれはやめたほうが良い。
9/17
ようやくまともな人間に戻れそうだ。
9/20
電車に乗っていたら人身事故で止まった。乗ってた電車ではないが同じ路線での事故らしい。すぐ前の電車だったかもしれない。 車内で興奮が収まらなくなって、駅のトイレでやった。もう本格的におかしいのかもしれない。 でも人身事故と言ったって必ずしも死を意識するほど思い詰めた儚い女子とは限らない。時間帯的にありえないかもしれないがおっさんが酔った勢いで落ちただけの可能性もある。そっちだったら嫌だな。
9/30
しばらくやめていたけどまたやりだしてしまった。あの時と同じ制服で、同じような見た目の女子がホームの端を歩いていた。たったそれだけで、自然と足が彼女の方へ向かう。 混雑だから、と言い訳するにしては近すぎる密着具合で彼女の後ろに立つ。電車が風を押し出す音をあの時の音と重ね合わせる。乗り込むときは彼女の足運びを観察し、電車とホームの隙間に落ちていかないかどうか淡い何かを抱く。
10/2
誤って紙で手を切ってしまった。血の臭いがした。そのはずみであの光景が広がった。 ネットで人身事故の画像を調べた。 こんなことはもうやめなければならない。でももうアレ以外何も感じないんだ 女の子をバラバラに切り刻みたい そうして胴だけになった裸体に顔をうずめたい
10/3
思うに本当の「劣情」とは、正常な欲求が充たされなかったことにより屈折したもののことを言うのだろう。欲求を満たせない劣等感、屈折してしまういやしさ、それを劣という言葉がいいあらわしているのだ。 なぜこんなことになったのだろう。こんなことでしか欲望を満たせない。全部あれのせいだ。あれさえなければ
こんなふうにはならなかったのに。
10/5
ホームの端を歩いた。女子生徒の真後ろで。 恐ろしい衝動がかけめぐった。 自分で自分をもう止められないような気がした。 あの子の悲鳴が聞こえた。
10/7
あるいは運命だったのかもしれない。
10/25
どうすればバレずに突き落とせるだろうか
※以上は、20■■年10月28日に■■駅で発生した線路突き落とし事件を起こし、自らも飛び込んで死亡した男による日記である。男は突如ホームに並んでいた女子高生を担ぎ上げ、被害者ごと線路に飛び込んだ。2人は直後に到着した電車に轢かれて死亡。 内容通り、男が特定の状況に対し異常な執着を示していたことが伺える。男の思考回路は到底理解できるものではなく、我々一般人とは根本的に異なるものである。