永遠のゆく先へ #10「アゲインスト・ザ・グラヴィティ」

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千本槍みなも@ナタクラゲ
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マリたちは、毎度おなじみの岩だらけの地表に戻っていた。

「これだよ」
リカがそう言ってポケットから取り出したのは、あの黒スーツ3人組が落としていったあの装置。補聴器のような部品からアンテナのような部品が伸びた、不思議な形をしている。

「ほら」
リカに促され、トワはそれを耳につける。するとそれは鮮やかな青色の光を放ちはじめる。
「わ、起動しました!」とトワ。
さらに、リカは他の2つも取り出した。これらも同じように光っていた。

「なるほど、それがトリガーってことか......」
そう言いながらリカはそのうちの一つを自らの耳に装着する。すると、リカは急に後ろの方向に飛ばされた。
「おわッ!?」
リカは見えない巨大な手に人形遊びをされているかのように、いろいろな方向に暴れ出し、何度か地面に打ち付けられる。
「だ、大丈夫ですか!?」心配するトワ。しかし、しばらくすると暴れは収まってくる。
「わかった......何となくわかってきたぞ......」
「何がわかったの?」カナタが答える。
「言葉じゃ説明できないけど......見ただろ? この装置を使うと、能力を『間借り』することができる。この装置は恐らく通信と仲介役だ。あとはコツさえつかめば、身体がその使い方を習得してくれる。......赤ちゃんが自分の腕を動かす方法を学ぶようにね」

「つまり、リカちんもトワっちと同じ力を使えるようになったってこと?」
「まあそんなところだ。力の範囲を広げる作用を持つから、エクステンダーと呼ぶらしい。......エレメントの位置も『見えて』きたぞ」
そしてリカはスマホを取り出した。「あとはこの軌道計算アプリを使えば」
「なにそれ?」カナタは尋ねる。
「私たちの位置と、目標物の位置を考慮して、最適な移動ルートを計算してくれるんだ」
「なんでそんなアプリが」

カナタの疑問には答えず、リカは言った。
「......実は、あと1分後に出発すれば最短で目標に到達できるらしいんだ。......じゃあ、私行くから、皆は待ってて」
「え、留守番?」カナタは不満そうだ。
「4人分を持ち上げるほどエネルギーに余裕ないだろ?」
「私だけでもついていきますよ!」とトワ。
「いや、お前は地表にないと、軌道計算ができないし」

「あと40秒」リカが言った。
「なんか、ロケットの発射みたいだね」とカナタ。
「実際似たようなもんだしな。発射後の進み方なんかもそっくりだ。ロケットは最初真上に飛ぶけど、最終的には真横に加速することになる」
「どうして?」とカナタ。
「ずっと真上に飛び続けたら、地球の重力に真正面から逆らい続けなければいけない。でも......」
リカは説明の途中で、タイマーを見る。
「って、もうあと10秒だ」
「9......8......7......」カナタとトワがカウントダウンする。
「6......5......4......」マリも小声でささやく。
「3......2......1......発射!」リカは叫ぶ。
その言葉とともに、リカは一人、空に飛びあがっていく。最初はゆっくり、どんどん加速して、空気を突き破っていく。

数分後、かなり地面が遠くに離れていった。そして、辺りが赤くなってくる。そして、あっという間に宇宙に到達した。
「ここからが本番だ。さっきから少しずつ横に飛んでるんだが、わかるか?」
トワの装置を経由して、リカが話す。
「ずっと真上に飛び続けたら、地球の重力に真正面から逆らい続けなければいけない。それじゃやがて力尽きて落ちてしまう。でも、横に進み続ければどうか。地球は丸いから、落ちても地面の方が下に下がるから、ずっと地球の周りをまわり続ける」
「なるほど~」とカナタ。
「実際には、大気圏内では空気抵抗を受けるから、さっさと大気圏を抜けるために、最初は真上に飛ぶんだけどな。今回の私たちもそうで、大気圏を出るまでが一番不安定なんだ。だから本当は時間は前後する可能性があって......」
カナタは感心して言った。「すごいね。こんなこと考えないといけないなんて。今まで適当過ぎたね。ただエレメントの方に飛んでいけばいいもんだと思ってたよ」
「地球じゃ重力はどこでも同じだけど、このスケールになると場所によって重力が大きく変わるんだ。だから直線距離が必ずしも最短とは限らない」
「それが『宇宙での移動のコツ』かあ」

そして、リカが言った。
「これで地球低軌道への投入が完了。あとはタイミングを待って、再び加速する。」

しばらくすると、トワが言った。
「リカさん、エレメントにかなり近づいてますよ!」
トワはエレメントを感知したようだ。
「わかってるよ」
トワがホログラムのように映しだしている空中映像の中には、猛スピードで進むリカの姿が中継される。その後方、上の方には小さくエレメントが映っている。
「もっと上だぞー!」
カナタの叫びは、トワのエクステンダーを通してリカに伝わる。しかし、リカはより一層強く加速するだけだった。「レースでもしてるつもり?」
だがリカは冷静に答える。
「宇宙ではほっといても進む。でも、星の重力には引っ張られる」
「どういう意味ー!?」
「進行方向に加速すればするほど、星の重力に逆らえるってことさ」
リカは言った。

「重力に逆らうためには、上に上がるんじゃない。前に進むのさ!」

そう言って、彼女は再び加速する。その姿はさながらボートレーサーのよう。
「......あいつ、ノリノリじゃん」

すると、本当にリカの高度が上がり、エレメントが近づいてきた。
「しかし、今回は運がよかった。何周もしないといけないところだった。......変な言い方だが、運命めいたものを感じるな」

地上にいる3人は、ただリカを応援するしかなかった。
「頑張れー!! リカちん!!!」カナタは空に向かって叫ぶ。
「頑張ってください!」トワはエクステンダーに手を当てて言う。
「......頑張って」マリは小さくつぶやく。

「加速すると、高度が上がる。高度が上がると、速度は下がる。速度を高度に変換する...」
リカはぶつぶつとつぶやきながら、じっとタイミングを見計らう。

リカはそっと、手を伸ばす。エレメントの速度と、リカの速度がぴったり合って......その手のひらに、光が重なる。その光は、ゆっくりと手の中へと納められる。


リカはまだ若干気まずそうに、マリたち3人の前に舞い戻ってきた。
「ほら、これ」
それは、エレメントが納められた岩のかけらだった。
「ありがとうございます」
トワはそれを受け取り、首にかけたペンダントに吸収する。

「......やるじゃん」
カナタがリカを肘で軽く小突く。
「別に」
なおもつれない表情のリカ。
「ね、ちょっとはその気になった?」とカナタ。
「その気って、なんの気だよ」
「何って......この冒険でしょ!」
「ああ......はいはい......」
呆れながらつぶやくリカだったが、その表情は前に比べたら穏やかだった。

トワがペンダントをつかむ。
「じゃあこのまま帰りましょうか」
「まだ力残ってるか?」リカが尋ねる。
「大丈夫です、この帰る分でちょうどって感じですが」
トワには若干疲れが見えるが、憔悴しきっているという感じではない。
「あくまで力の源はお前だから、消耗するのもお前の方だ。力を使いすぎたかもしれない。すまん」リカは軽く頭を下げる。
「いや、大丈夫ですよ」

「それではいきますよ」
再び、周囲を強い風と光が覆い始める。
「いろいろあったけど、これで一見落着だね」
そのカナタの言葉に、マリは少し引っかかった。何か一つ、残っているような気もしたのだ。

やがて、世界は白く染まっていき、

すべてが、収縮する。


あれから、数日。カナタとトワとマリがいたのは、あの不思議な家の前。「リカさん、出ますかね」
「あたし調べなら、この時間は家にいるはず」と言いながら、カナタはインターホンを押そうとする。ストーカーに片足突っ込んでいる、と思いつつ、マリはそれを制止した。
「え?」当然、驚くカナタ。彼女が面食らっているうちに、マリは手を伸ばして、それを押した。
「......なんだあ、そんなにボタンが好きだったの? マリりん」
「......そうじゃないよ」マリは微笑みながら否定する。

ゆっくりと、ドアが開いた。出てきたのは、リカだった。彼女は3人を見るなり硬直して、無言でドアを閉める。
「おいおいおいおい」カナタは閉めかかったドアをこじ開けようとする。
リカは再びドアを開ける。「うそうそ、いいよ、上がって」

あのリビング。彼女の父は見当たらない。4人はこたつに入る。
「そんで、何しにきたのさ」緑茶をすすりながらリカが言った。
「そりゃ......ちゃんと食べてるか確認しにきたんだよ」冗談めかしく言うカナタ。
「あのなあ」リカは目を細めて言った。「手土産くらい持って来いよな」

もどかしくなり、マリは尋ねようとする。
「あ、あっ、あのさ......」
その時、リビングの入り口から、見覚えのある男性が入ってきた。リカの父、聡だ。

「ああ、皆来てたのか。ようこそ」
聡はこたつの前に座った。その様子を皆が黙って見ていると、彼は口を開いた。
「......何か成果があったのか」

トワがマリたちの顔を順番に見てから、ペンダントを掲げる。
「実は、エレメントをまた一つ、手に入れることができたんです」
聡は声の調子を上げて言った。「それはいい」

すると、リカは言った。
「......お父さんのアプリが役に立ったんだ」
聡はぎこちなく返す。「......そうか、それはよかった」

その様子を見たカナタは茶化すように言った。
「おたくの娘さんも頑張ってましたよ~」そしてリカの背後に回り、両肩を掴む。
「やめろよ」迷惑そうなリカ。

聡は少し考えてから、急に頭を下げた。「......申し訳ない」
「ええっ」突然の謝罪にカナタは慌てる。
「......いや、多分私のせいだったんだ」聡は言った。「その日なんだろ? 梨花が君たちのところに行かなかったのは」
「あ......」思い出すカナタ。

「君たちからその、エレメントの話を聞かされた時、知的な好奇心の他に、もう一つ思い出したことがあったんだ。少し前から、たまに梨花が楽しそうにしていた時があった。その次の日に限って帰りが遅いから、何かをしてきたんだろうなと思ってはいたんだ。まさか時空を超えた冒険に行っているなんて、君たちの話を聞くまでは夢にも思わなかったが」
リカは恥ずかしそうにうつむく。
「そんな突拍子もない話を信じられたのは、それだからという側面もある。あの話の後、梨花は衛星の運動シミュレーションを作ってほしいと言ってきたから、冒険に使うのだと思っていた。その後梨花がそわそわしている日があって、今日がそうかと思ってたが、......結局どこにも行かなかった」

聡は複雑な表情を浮かべる。
「あの時、思い出したんだ。そういえば昔、梨花を一人にさせるようなことを言ってしまったと......」
マリはリカが言っていた過去の話を思い出す。

「......お父さんは悪くないよ」リカが擁護する。「全部自分の意思だから」

聡は言った。「さらに言えばあの日、君たちにも何か、見定めるようなことを言ってしまったかもしれない。それは申し訳なかった」
あの時の「大事な友達だから」「いい関係を築いてほしい」という言葉が、マリには引っかかっていたのだ。それって純粋な願いのようにも思えるけど、逆に言えば「いい関係しか認めない」という無言の圧力でもある。

「まあ結局、その後来たんですけどね」トワは言った。
「やはりか。やけに観測の帰りが遅いと思ったら、案の定」
「心配でした?」カナタが尋ねる。
「いや、むしろ安心したよ」
父の言葉に、梨花は目を見開いた。

これで、すべてがうまく収まった。

マリたち3人は、リカの家を後にする。リカは追いかけようとするが、聡が一度引き留める。

「梨花、ごめん。今まで父親として、私は不器用だった」
「......ううん、お父さんもいろいろ大変なんだから」
「これからは、梨花の知りたいこと、やりたいことをとことん突き詰めればいい。私のような大人がどう思うかなんて、気にしなくていい。もちろん、私自身もそういう呪いを掛けないように気を付けるが。けれど最後は、梨花自身で道を決めるんだ」
リカは少し涙腺が緩んだ。
「それが科学だし、それが人生なのだから」


リカは3人を見送るために玄関に向かった。

「じゃあな」
リカは3人に手を振る。
そして、誰にも聞こえないくらい小さくつぶやいた。「......また来いよ」

だがそこに、カナタがかぶせる。
「ねえ、この後みんなでさ、......ゲーセン行かない?」

リカは、笑顔でうなずいた。

(続く)

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Credit
  • タイトル: 永遠のゆく先へ #10「アゲインスト・ザ・グラヴィティ」
  • 著者: 千本槍みなも@ナタクラゲ
  • 作成年: 2026
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