人間自販機


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ある男から、妙な物を買い受けた。さっきからそこで一糸まとわぬ姿で立ち尽くしているのがそれだ。17歳だと言っていたかな。こんなところを誰かに見られたら、間違いなく警察のお世話になるだろう。だが、あいにく私には誰も寄り付かない。私に関わると損をするといううわさがそこら中に流れているからだ。実際それは正しい。それは私が小金持ちである理由でもある。まあそれが孤独である理由でもあるのだが。孤独というのは悪くないが、私だって時には寂しくなることもある。

だからこそこれを買ったんだ。これの柔らかさと温もりは、殺るか殺られるかのビジネスの世界で荒んだ心をいやしてくれる。愛は金で買えるのだ。

だが買えるのはそれだけではない。これを売った男は、これのことを「人間自販機」と呼んでいた。こいつは口もきかず、ぼうっとしているのか恍惚としているのかという感じで、常にかわいく口を開けている。つまりそういうことだろう。だが今日はもう遅いから、明日試してみることにする。

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やはり、口に金を入れると、「商品」が出てくるようだ。最初はとりあえず10円玉を入れた。しかしすぐさま咳き込んで吐き出した。次に100円を入れてみた。すると彼女の唇の隅から、透明でとろっとした液体が垂れてきた。私をそれをコップに入れ、飲み干した。

金額を色々変えて試すことにした。500円を入れると、それの恥部から、勢いよく黄色みがかった液体が噴き出してきた。勿論飲み干した。次に、1000円札を入れた。すると綺麗に締まった丸い尻の隙間から、茶色い塊がひり出された。これはコーヒーに入れて堪能する。

通常の恋愛を諦め、あらゆる性癖に手を出した私だが、「本物」を見ることができるとは夢にも思わなかった。

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同じ金額を何度も試す。まずは500円。尿の勢いはその時どきによって異なるようだ。太ももを伝うようにちょろちょろと落ちることもあれば、今にも漏れそうだったかのような勢いで出てくることもある。

次に1000円で繰り返す。大体は普通の健康な便だが、場合によっては水っぽかったり、血が混じっていることもある。排泄物と鉄分の香ばしい香りが漂う。

さらに多い額も試す。5000円では、こんどは血だけが出てきた。この場合は鼻や口、下の口などいろんな場所から出てくる。奮発して1万円を入れたら、愛液が出てきた。これはいい。

唯一の問題は、「商品」を出すときわずかに動く以外は直立不動のまま固まっていて、本番ができないことだ。それどころか、かすり傷すらつけられない。何故か弾かれて服も着せられない。着せる意味などないが。

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中途半端な金額を試したが、先に試したものの中で一番近い金額のものが出てくるようだ。それにしても、一度に何回やっても「商品」が品切れになる気配がない。水も飯も食わせてないのに、どうなっているのだろう。

仕組みはどうだっていい。やわらかいおなかに耳を押しあて、その律動を感じながら、今日もお金を入れる。

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今日も「日課」をやろうとしたら、おかしなことが起きた。何円入れても、ゲロしか出てこない。何かおかしなことをしてしまったか。まあ、これはこれで良いのだが。

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出てくる物がもとに戻った。昨日はなんだったのだろう。

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またゲロが出てきた。と思ったら戻ったりで、気まぐれだ。そんなところもかわいいのだけどね。

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心なしか、おなかが膨れているような気がする。金を入れすぎたか?まあ十何万も入れればそうなるに決まっているか。

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不定期に商品がゲロに変わる。それにおなかの膨らみが止まらない。金を入れる度におなかが膨れているように見える。流石に金だけでこんなに膨らむとは思えないが……

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おなかの膨らみはとどまるところを知らない。これじゃあまるで……

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今日金を入れたとき、変化は起きた。便を出す代わりに、その張りのある乳房から、白い液体が出てきた。これはもしかして……母乳か?

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恐れていたことが起きた。1万円を入れたら、股の間から、粘膜と液体とともに赤子が落ちてきた。赤子が元気に産声を上げるものだから周囲に聞かれないか心配だったが、問題はそれではない。

自販機が意識を取り戻した。今まで直立不動だったのが嘘みたいに取り乱していた。とりあえず悲鳴を上げる前に縛って、地下に隠しておいた。一体何が起きたのだ?

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赤子を始末しようと思ったが傷ひとつつけられない。餓死させようとしばらく放置しているが死ぬ気配はない。一方で自販機だった方は衰弱しつつある。とりあえずそっちには飯を食わすことにした。このあと彼女をどうしよう。

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赤子がいなくなった。家中探し回り、いよいよ脱走したかと考えたところで、ヤツはいた。金庫の中だ。金庫と言っても、既にしまう金などなかったのだが。ヤツは金を食ってやがった。もしかして、自販機の中で金を必要としてたのは、コイツだったのか?

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ついに赤子が家の外に脱走した。しっかり閉じ込めておいたはずなのに。まあ、私が狙われなくなっただけ良かったとしよう。家の現金は全部なくなってたが、それ以外の金目のものは全部無事だった。ヤツが現金にしか興味がなくて助かった。

自販機だったものは相変わらず口をきかない。未だに話せないのだろうか。それとも怯えているだけなのだろうか。おそらく後者だろう。ということは、アレもできるようになったかもしれない。こんな時だというのに明日は大事な商談がある。それが終わったら、今度は動く彼女を堪能することにしよう。

以上は、[個人情報につき削除]誘拐事件に際して回収された日記の抜粋である。日記を書いた男は準強制わいせつ、監禁および人身売買の罪で有罪判決を受けた。被害者の17歳少女は自ら脱出し警察に通報した。その後少女は「お札を食べる謎の男に強姦された」と証言しており、日記に書かれている少女を販売した男との関連が示唆される。販売した男は未成年者誘拐および強姦の疑いで捜査中であるが、未だ手がかりが掴めていない。また、日記で言及されている赤子の行方も依然として不明である。