永遠のゆく先へ #23「建前」

嵌〜め〜ら〜れ〜た〜〜〜〜〜!!!!

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千本槍みなも@ナタクラゲ
5492文字11分で読めます

「友達ごっこは……終わりにしましょう?」

宙に浮かびながら、少女は言い放つ。
「アンタたち用済みなんだってね」

「用済み……?」リカは訝しむ。
「アンタたち、利用されてたのよ。気づかなかったの?」
「利用って……どういう意味!?」カナタは問い詰める。

「アンタらが世界中を飛び回って手に入れたやつよ。おかげでずいぶん集まったみたいね」

「エレメントのことか……」リカは顔を手で押さえる。
「もう十分集まったから、ここに呼び込まれたのよ。それでこれから処分されるってワケ」
「ねえ、そもそも何なの? エレメントって……」カナタは問う。
「さぁ? そんな呼び方してるのもアンタたちだけ」
「存外何も知らないみたいだな……用済みってのはどこで聞いたんだ?」今度はリカが問う。
「私を閉じ込めた奴がそう言ってた」
「閉じ込められてたのか……? なぜ」

「なんで答える必要があんのよ」
そう言って、少女は空中を動き出す。

カナタが叫ぶ。「何をしようとしてるの!?」

少女はバリアに近づき、そこに閉じ込められている、トワを指さす。
「こいつを、殺すの」

「なぜ!?」カナタはさらに強い剣幕で問う。

少女はわざとらしく拳を握る。
「だって……許されないことをした。こいつのせいで、何回も命が弄ばれた」
リカは尋ねる。「それは……あいつがクローンの元になったからって意味か?」

すると少女は、驚く様子もなく答える。「……ふん、知ってたんだ。そう。こいつは……」

言いかけた相手を、カナタが遮る。「トワっちはただの被害者でしょ!」
「……どうしてそう言い切れるの? あいつの罪はまだ……」
喋らせまい、とカナタは被せる。
「うるさい! あの子に手を出すつもりなら、そんなのあたしが絶対許さない」

必死のカナタを、少女は鼻で笑う。
「この組織についてどこまで知ったのか知らないけど……一つ言っておく。アンタたち、私に殺される方がはるかにマシよ」

「……殺されてたまるかよ」構えるリカ。

「そんなに試したいなら、味わわせてあげる……」

少女は両手を前に突き出し、全身を広く発光させる。何らかの白い球体が少女の前に生成され、成長していく。

少女は鋭い目つきでリカを見たかと思うと、急に振りかぶってその弾を投げつける。すかさずリカは跳び上がって避けた。弾が当たった床は焼け焦げて白煙が上がる。少女は続けて、別の方向にもう一発。カナタに向かって進んで行く。カナタも跳んで避ける。

「ちょこまかと……」少女は今度はマリを睨む。

「ひッ」足がすくむマリ。少女はマリに向かって球を投げつける。うまく飛べなきゃ死ぬ。それも、本格的にエクステンダーを使うのは初めてなのに。うまくいくのか……?

飛べ!

たどたどしいジャンプだが、一応避けることには成功した。だが、少女が腕を振り上げると、弾は床に当たる寸前で軌道を変更して上へと進む。

「あぶないっ!!」トワはとっさに力を使い、遠隔でマリを横に突き飛ばした。弾は天井にぶち当たり、ドシンという大きな振動音を鳴らす。

「おっ……!?」直後、カナタはバランスを崩してゆっくり落下していく。

「ああっ!!」トワは叫び、カナタを支えるが、今度はリカがよろめく。

「そんな人数で扱えるようにはできてないのよ……」
エレメントを使えば4人が同時に力を使えるようになる。だが、合計は1人分。おまけに、攻撃方法もない。

だだっ広い部屋に、敵とトワ、そして普通の女子高生3人。床には、機動部隊員たちが何十人も倒れている。

「邪魔だわね……こいつら……」

彼女は片手から黒い球体を発生させ、それを床に掃除機のように滑らす。あっという間に隊員たちは吸い込まれ、消滅する。

またひとつ恐ろしいことが起きた。圧倒的な相手だ。これまで勝てたのは、ずっとまぐれだった。でも今は、正面から殴り合うしかない。

「ねえトワっち」カナタがトワに見返り、呼びかける。
「トワっちが攻撃できないなら、代わりにあたしがやるから」
さっきの恐竜時代で、攻撃しようとしたトワは動揺していた。失われた記憶の中に、何かしらのトラウマがあるのかもしれない。
「あたしに力、貸してくれる?」

「……」トワは若干間をおいて、言った。「はい」

カナタは何度もいろんな向きで手を合わせ、それを試みる。「火の玉ってどうやって作ればいいのぉ?」

少女は嘲笑する。「馬鹿ね。何も知らないのはそっちじゃない。いくら冒険ごっこを続けようとね……」

しかし次の瞬間から、周囲の砂ぼこりがカナタの手の中に集まっていき、やがて小さな炎が現れた。
「こうかな!?」

「そんなはずは……」少女は二度見し、動揺した。

調子に乗るカナタ。
「よし!! いける!!」火球はゆっくりと、だが着実に大きくなっていた。
リカは焦る。「おい、大丈夫か? 反動とか……」
カナタは手を振るわせる。「アッツ……いけどいける!! 耐えれるレベルだから!!」

そして唱える。「嵌〜め〜ら〜れ〜た〜〜〜〜〜!!!!」

放たれた弾は、一目散に相手の元へ飛んでいき、大爆発。

カナタは、自分が何をしたのかよくわからず目をパチパチさせていたが、やがて誇らしげに「ど、どうだ〜!」とガッツポーズをマリに見せた。

だが、煙が消えると、少女は無傷だった。
「バリアを出すまでもないわ」

そう言うそばから少女は左手を上げると、小指が逆側に折れ曲がっていた。ぞっとするカナタ。

「チッ……」すると、少女はもう一方の手でそれをつまんで元に戻した。まるで瞬間接着剤をつけるかのように数秒おくと、小指は完全に元通りになった。

「結局、また改造に助けられたわ」

「改造……」引っかかり、リカが口を挟む。「あんな大怪我したのにすぐ戻ってきたのも、改造のおかげか?」
地下の研究室での戦いで、自爆して足を失っていたはずなのに、さっきの恐竜時代では完全に復活していた。
「ふん……そうだけど?」

「ツーとスリーも巻き込まれてたよな……あいつらはどうした!?」

「あいつらはまだ療養中。再生能力が低いってのも大変ね。あんなの足手まといよ」少女はめんどくさそうに答える。

「友達じゃないの!?」とカナタ。
「あいつらは友達なんかじゃない。命令されたから、一緒に仕事をしてただけ」
「命令……これも命令か? 命令されればなんでもやるのか!?」

彼女は答えず、バリアの中のトワを指さす。
「見なよ、あの姿。鳥籠に囚われて、ただアンタたちに力を差し出すだけ。命令に従うだけの奴隷よ」
トワは憂いを帯びた表情で仲間たちを見た。

「友達を持った結果が、命令されるだけなんてね」
少女は続ける。「私はもう命令に従うのはやめた。組織は従わせたかったみたいだけど。脳改造までしてね」

「それで……何をするの……?」カナタは尋ねる。

「罰を与えるの。命をおもちゃみたいに使い捨てるこの組織と、その元凶のこの女に。それがみんなの望みだから」

「みんなって?」

「私を生み出すために造られた、無数のクローンたちよ。組織のモルモットになるためだけに生まれて、電気を流されたり、ゴミを食べさせられたりしている」
少女は目を細める。「皆恨んでいる。こんなことになったのは全部あいつのせいだってね」

しかし、カナタは何かの違和感に気づいたようだ。「そんなのおかしい」

少女は彼女を睨む。「……どこが」心なしか、動揺しているように見える。

「本当は罰なんてどうでもいいんじゃないの?」問い詰めるカナタ。

「……違う。今だって、残虐の限りを尽くした実験が……」

「もう実験は行われてないよ」

「は?」考えられない、という表情で見下す少女。

「あんた、クローンたちの代弁者みたいに言ってるけど、本当は何も知らないんじゃないの?」
「そんなわけ」否定する少女。

「お前……知らないだろ。私達が会ったクローンの一人は、トワの幸せを願ってたぞ」
「ありえない……」言葉に詰まる少女。トワも目を見開く。

「……いや……」少女は少し逡巡してから、口を開いた。ついに本性を露わにする。「……そうよ」

少女は、ハハハと、しばらく高笑いをした。
「……どうでもいいわ。あんな失敗作たちのことなんて」どことなく、愉悦に浸ったような声色で。
「心の底からどうでもいい。何か問題ある?」

「……建前だったんだな」リカが指摘する。
「だったらなぜトワを殺す!?」カナタはまだ問い詰める。

すると彼女は、また少し余裕さを失いつつも、言った。
「……私は自由なの! 何をしようが勝手でしょ!」

「というか、お前もクローンなんだろ? 同情とかしないのかよ」

リカが尋ねると、少女は高く飛び上がる。
「私はあいつらとは違う。ただの人間であるあいつとも、他のどの失敗作とも違う、完成品なの。誰よりも強い力を出せる。足が折れても、一週間もすれば繋がる。何より……」
少女は微笑む。「私には名前がある」

リカは口を差し挟む。「……フィーネ、か?」

相手はまた調子を狂わされたという感じで言う。「なぜ、その名を……」
「あのチェーンソーの人から聞いた」とカナタ。
「あいつ……失敗作のくせに、一丁前に仕切ろうとしている」
「お前、会ってたのか……」だからこそ、彼女はフィーネの名を知っていたのだ。

「私に楯突いたから、軽くひねってやったわよ。ゴミ溜めではおとなしくしてもらいたいものね」
「ひどい……」怒りが溢れ出るカナタ。
「その人なんだぞ。トワを想っていたのは」とリカ。「会ってたならそう言ってたはずだろ」
「……あんなやつの考えてることなんてわかんないわよ。心の底では憎んでるかもしれない」
「ク……」歯をギリリと食いしばるカナタ。

「まあいいわ。アンタらに知られたところで何の意味もない。そもそもアンタらに用はないのよ」
フィーネは再び、トワの元へとゆっくり接近する。

「まずい……」カナタは先回りしてバリアの前に向かった。

「そこをどきなさい」

「いや……だ……」カナタはバリアにくっついて、少しでもトワと触れあおうとする。

フィーネは片手を突き上げる。「いいわ。望み通りにしてあげる。一生被検体として過ごすより、ずっとマシだものね」
「一生……被検体……?」カナタは繰り返す。
「意外って顔ね。組織の実態を知ってれば、容易に想像できたと思うけど」

フィーネは今度は腕を左右に広げる。エネルギー弾が生成されていく。周囲に地震のような振動が発生する。
「そもそも今の私は、こんな場所一瞬で吹き飛ばすことができる……」

緊迫感が走る。

「何とかして止めないと……」カナタは再び火球を作ろうと手を合わせる。だが、何も起こらない。

「そううまくはいかないだろ、とりあえず、何かに隠れろ……」リカは言うが、カナタは諦めない。
「トワっち! もっと力貸して!」
だが、トワは生返事。「はい……」
いくら試しても、一向に火球ができる気配がない。

フィーネの体長を遥かに超えたエネルギー弾を持ち上げながら、彼女は笑う。
「フン……大人しく殺される気になったみたいね」

カナタは再び叫ぶ。「そんなはずないでしょ!」そう言って振り返ると、バリアの中のトワは頭を垂れて悄然としていた。

「トワ……っち……?」カナタは目を見開く。

トワは口を開いた。
「……もう……いいんです……」

「は?」思わず声が出るカナタ。

「……もう……私は……」
トワは語り出す。「……私が悪いんです。全部。フィーネさんの言う通り、私さえいなければ、こんなことには」

「何……言ってるの?」とカナタ。

「クローンの方たちが苦しんでるって聞いて……私がいなければそんなことも、マリさん、リカさん、カナタさん、皆さんをこんな危険な目に巻き込むことも」

「そんな……」とカナタ。

「私は、消えるべきなんです。存在してはいけなかったんです。皆さんと過ごせて……私、幸せでした。これ以上なんて……もう」
そう言って、トワは身体を発光させはじめる。

「おい、何やって……」とリカ。

「皆さんを外に帰します。私はこの檻から出られなかったけど、皆さんに力を貸すことはできた。皆さんを外に出すことならできるかもしれない」

「だめ!」カナタは悲しげな顔で答えた。「皆で帰ろうよ!? ねえ!?」
「騙されるな! クローン皆が恨んでるなんて嘘だ! 私たちは見た!」リカも叫ぶ。だが、トワは目を逸らす。

すると、マリたちは自分の身体が動かないことに気づいた。
「まさか……お前が止めてるのか?」とリカ。

「さっそく仲間割れみたいね!」フィーネはうれしそうに冷笑する。「アンタらにはお似合いの末路よ」

マリは、時空移動の時にいつも感じている、身体が裏返る感じを少しずつ覚え始めていた。

トワは、涙ながらに笑いかける。それは、悲劇的ながらもどこか卑屈な笑顔だった。
「みなさん、さようなら……お元気で」

(続く)