ひのもとさんに無許可で


昔、皆が毛皮の服を着ていたある村に、小柄な男がいた。彼は体力は無かったが賢く、狩りの方法を皆にアドバイスしていた。

ある日彼は森林火災を見た。皆が恐れおののいたが、彼だけは、これを何かに使えないかと考えた。そして拠点に帰り、自らそれを起こす方法を考えた。

彼は何年もいろいろな方法を試し、ついに成功した。木をこすり合わせるという方法だった。男はそれに「火」と名付けた。すると今まで固くて食べられなかった木の実が食べられるようになり、鮮度の低い肉や魚も長く食べられるようになった。

彼はすぐ、このことを村の全員に教えれば名声が得られると考えた。ところがさらに賢かった彼は、あることを思いつく。

彼は村の人々を呼び寄せ、目の前で火を起こし、魚を焼いてみせた。彼はおいしそうにそれを食べた。人々は釘付けになり、すぐさま火を起こす方法を教えてもらうように求めた。

しかし彼はこう言った。

「火は正しく使えば便利だが、使い方を間違えると、あの森のようなことが起きる。そこで、火の扱いを熟知している私が代わりに使ってあげよう」

村人は納得し、彼にいろいろなものを焼いてもらった。火の恩恵は絶大で、村は一気に大きくなった。しかし規模が大きくなるにつれ、間に合わないことが多くなった。さらに彼は仕事が増えたからと言って、火を使うのに報酬として獲物や装飾品を要求するようになった。村人はしぶしぶ従っていた。

この状況に不満を覚えて、ある子どもがついに動いた。男の家は火で夜でも明るい。子どもは隙を見て、持参した木の棒にこっそり火をつけた。しかし男は目ざとく見つけて子どもを捕まえた。そして子どもの髪を焼いた。これが知られると村人は恐れて、反抗しようと考える者など誰もいなくなった。

しかし、男は忙しくなるばかりで、得られた肉や魚も食べきれずに腐っていくばかりだった。そこで男は他の人と火を分け合うことを許可した。ただし、報酬を払って男の火から直接つけることだけが許可され、購入した火を他の人に分け与えることは禁止した。結果として、男は沢山の報酬を得ながら時間的余裕を得ることにも成功した。

男は今や村長よりも偉くなっていた。「ひのもとさん」と呼ばれ、実質的に村の物事をすべて決める力を持っていた。驕り高ぶる男を誰も止められなかったし、止めようとする者もいなかった。それどころか畏敬の念すら抱かれていたのである。

ところがある夜、村の外から変わった格好をした人々が現れた。彼らは火を明かりとして使って歩いてきた。突然の訪問を出迎えたのは、村の中で特に何の地位もない女。女はその火を見て驚いた。来客は、この村に火はないのかと聞いたが、女はこう返す。

「いえ、あります。ありますが、ひのもとさんに黙って火を使うなど、許されないことです。それは盗みです」

来客は返す。

「それなら、自らが起こした火なら問題なかろう。ほら、こうやるんだ」

来客は火打ち石を使って火を起こしてみせた。来客は火打ち石の商人で、男を頼るよりも遥かに安く販売した。女は思い直し、火打ち石をたくさん仕入れ、安く売ることにした。

火打ち石を使う方法は、「ひのもとさん」が考えた方法よりも遥かに楽で、安くて、誰でもできる。女の闇取引により、火は水面下で多くの村人に広まった。一部の村人は男に見つかることを恐れたが、それでも火の便利さを取る人が多かった。

ある日、ついに男は事態に気づいた。男は激怒したが、一部の者は、誰も男からは盗んではいないと主張した。しかし男は、私が得られるはずだった肉や魚、装飾品が盗まれたのだと主張した。村人は誰も納得しなかった。

男の主張にも関わらず、村では広く火が使われるようになった。我慢ならぬ男は、火打ち石を売っていた女の家に火を放った。ところがこの村は狭く、家が密集していたため、即座に村中が大火事になった。皆慌てて逃げ出した。幸い逃げ遅れた者はいなかったが、逃げた先で犯人探しが始まった。男は女に罪をなすりつけようとしたが、今や村中の敵である男をかばう者などいなかった。男はばつが悪くなり、村を去った。村人たちはついに火が自由になったと喜び、女は表立って火打ち石を販売できるようになった。

数十年後、女は老婆となり、火打ち石の店は大きく成長していた。ところが最近は大きな問題があるという。それは木の棒の先にリンを塗りつけた、「マッチ」などというものが使われるようになっており、火打ち石の売り上げが減っているのだ。老婆はしばしの努力の末、マッチを売っている者を捜し出した。そして、マッチを売るのをやめなければ、その店に火を放つと脅すのだった……。