アルバム「ナタクラゲ」(前編)完成! 制作秘話などを一挙公開

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千本槍みなも@ナタクラゲ
目次

こんにちは、ナタクラゲです!

noteで書いていた「週間アルバム制作記」と題したシリーズは、結局1年以上前に更新を停止してしまいました。飽き性なもんで。

週刊アルバム製作記|千本槍みなも@ナタクラゲ|note

週刊アルバム製作記|千本槍みなも@ナタクラゲ|note

1stアルバム『ナタクラゲ』の制作記です。これを書くことによって頓挫を防ぐために書いています。最初は日記形式でしたが今は毎週水曜日に更新。

週刊アルバム製作記|千本槍みなも@ナタクラゲ|notenote.com

しかし、このシリーズを始めたそもそもの理由である「アルバム制作の挫折を防ぐ」の方は図らずも達成しているため、これでいいのだと思いたい。おそらく今後もこのシリーズが更新されることはないでしょう。いつか日記とかは始めるかもしれません。

アルバム完成(?)

というわけで、かねてより制作していた1stアルバム「ナタクラゲ」が完成しました。

嘘です。完成したのは前半だけで、後半はまだ一曲も作っていません。しかし、前半だけで40分もあるので、ここでいったん区切りとしたい。2枚組ってことにして。

完成したのがこちら。YouTubeで全曲タダで聴ける上にCC BY-SAで利用できるのでぜひどうぞ。

曲一覧はこちら。

  1. ナタクラゲ
  2. 懲役80年
  3. 絶頂、その果て
  4. 合法投棄
  5. ラット・イン・ザ・バット
  6. シロップ
  7. いいゆめみてね

ここからは、アルバム制作に関しての小話などを。

構想

もともと前名義時代に「仏教の六道輪廻をThe Wallみたいなロックオペラにしたら面白いんじゃないか?」というアイデアがあり、このプロジェクトの一環として実際に2曲を制作していました。

今聴くとピンクフロイドの影響受けすぎですね。しかしこれは頓挫することになります。なぜかというと曲数が尋常じゃなかったからです。一道あたり5~6曲を六道分、さらにプロローグやエピローグ、間の曲も入れたら、40曲超の3枚組になってしまう。これは無理でした。高すぎる目標は有害です

この経験もあり、本名義で活動を始めるにあたってアルバム自体はCD1枚くらいの分量にまとめたいと思ったのです(結果的に1枚に収まるか微妙になってしまいましたが)。しかしコンセプトアルバムとしての要素は残す方向で。さらに六道のストーリー終盤にあった「少女が人々を虐殺する」という要素も残しました。そこに自分のキャラクターである「クラゲと少女の融合」という要素を、研究所から脱出してきた被検体という形で入れました。

アルバムタイトルとオープニングトラックのタイトルはすぐに決まりました。これらにはアーティスト名と同じ名前を付けました。つまり、「Black SabbathのBlack Sabbath」「Iron MaidenのIron MaidenのIron Maiden」「MotörheadのMotörheadのMotörhead」みたいなことをしようとしたのです。するとアルバムは自然と自己紹介的な性質を帯びてくるため、いっそのこと自分の半生を寓話で表現したようなものにすればいいのでは? というアイデアに至りました。

要素として入れたいものはいくつかありました。まずは「メタル」。これはすべての基本です。今回はロックオペラ的な内容なので、メタル的ならばサブジャンルはあまり気にせずに入れるという方針を取りました。好きなメタルがまだ定まっていなかったというのもあります。

次に「ボカロ」。私はずっとVOCALOIDで曲を作ってきたし、それ以外にするという発想はありませんでした。ボカロは中学の頃にちょっと好きで、それ以降はあまり聴いていないので、正直「ボカロらしさ」が何なのかは未だによくわかっていませんが、少なくとも言えるのはボカロの声が好きということ。特に好きだったのはカゲロウプロジェクトで、ほとんどそればかり聴いていました。IAなのはそのせい。

その他要素としては「ゲーム」。特に「ゆめにっき」は割と最近出会ったゲームではありますが、自分の中にかなりの影響を残しているので取り入れたいと思いました。またストーリー的にはSCPなどの「SF」の要素を取り入れています(これは後半の方が強く出てくるかも)。

その他の方針として、「歌詞やタイトルに英語をあまり入れない」とも決めていました。自分はほぼ英語のメタルしか聴かないのですが、洋楽バンドの真似事に終わりたくないとは感じていて、また日本ならではの表現ができるのではないかと考えており、人間椅子ほどではなくても日本的な要素で頑張りました。彼らよりはもっと現代的というか、「今の日本」の雰囲気みたいなものを表現したかったのです。

以下で、各曲について語っていこうと思います。

1. ナタクラゲ

イメージ:衝撃、虐殺、狂暴

平穏なイントロから、一気にギターで畳みかけ、そのまま疾走していく。中盤ではテンポを落として葛藤を表現しました。

最初の曲はとにかくインパクトを出そうと頑張りました。今考えるともう少しうまくできたような気がしますが、当時は本格的なブラストビートの曲を作ったのがほぼ初めてだったのです。

イメージしたのはSlayerとかオールドスクールなデスメタル、というかデスラッシュ(って言うのかな?)。オープニングはかわいい感じを出したくてオルゴールっぽい音と、ゲームっぽい感じの音を入れました。この唐突なオープニングはMetallicaの初期みたいな感じ? 中盤はBlack Sabbathをイメージ。

歌詞は物騒な言葉がひたすら並ぶのですが、韻を踏んでいて、ユーモラスですらある。中盤のパートでは一転して葛藤や後悔が見えるようにしました。

この曲を完成させたことで、自分はメタルも作れるんだということを理解しました。ギターソロがちょっと難しかった。いわゆる速弾きを全然練習してこなかったので、ソロはアルバムを通してずっと難しかった。DAWの機能でかなりごまかしています。

この曲は全体で言うところのプロローグにあたり、最終盤の展開を最初に持ってきたものです。これはThe Wallの「In The Flesh?」と同じですね。

2. 懲役80年

イメージ:終わらない苦痛、残酷

スローテンポで進む曲。1曲目とは対照的に、中盤でアップテンポになる。

この曲はイントロの重なっていくところを一番最初に思いつき、ここから発展させました。歌詞の言い回しとか曲の進み方とかは人間椅子を勝手にイメージしてみました。

この曲は施設に閉じ込められた主人公が危険で非倫理的な「実験」に毎日のように参加させられるというものですが、それに加えて雑居房の同居人からの仕打ちもあります。この辺りは、実は学校生活をイメージしたものでもあります。

これを1月1日にリリースするという所業。と思ったらリリース数日後に同名の曲が出た。

この曲の最後で、主人公は謎の力で施設を脱出することになります。

3. 絶頂、その果て

イメージ:幸福とその終わり、喪失への恐怖

疾走ドラムにメロディ。これはパワーメタルをイメージしたものですね。

このアルバムのモチーフの一つにゲームがあるので、ピコピコ音とかを入れてみた。以後の曲ではあまり使っていないが。内容はかなりノンストップで疾走する感じ。最初に思いついたのはAメロのメロディだった気がする。

ギターソロが難しかった。これもDAWでかなりごまかしている。ソロ後半はクラシックの要素を入れたくてバッハの小フーガから引用した。バッハはメタラー。ギターソロの途中で転調するのは、Iron Maidenを参考にした。

ストーリーとしては前曲の後、主人公は農夫の家族に拾われた後、海水浴に行っているときの話。歌詞はこのときの「この幸福が失われてしまうのが怖い」という感情を表現している。ただ、既に失われてしまった時間軸からの視点も含まれていて、この辺は曖昧。この曲の伏線がのちの6曲目とかに効いてくる。

制作中タイトルはずっと「人生で一番幸せな日」だった。しかしあまりに安直なのと「The Happiest Days of Our Lives」すぎたのでボツにして、最後の最後でこれに。

4. 合法投棄

イメージ:孤独、置いて行かれる感覚

これはメロデスないしはメタルコアのイメージで作った。実際にはデス声は一切使ってないわけですが。個人的にかなり気に入っている曲。ツインギター的な要素を存分に入れられたと思う。それまで「ハモリは要所要所で使うものだ」と思っていたのを、この曲を作ったことでもっと安直に入れてもいいのかもしれないと思うようになった。

この曲は元々メタルっぽさを離れ、RadioheadのWeird Fishes/Arpeggiにインスパイアされた性急なビート+クリーンギターの曲にしようと思っていたが、結局こんな感じに。その時からタイトルは変わっていない。

Bメロ終わりの言葉数が詰まってるところは最近のJ-POPっぽい?(よく知らない)Bメロまで作った後、サビをどうしようと思ったのですが、テンポアップした最初のメロディが十分強いと判断してそのまま間奏となりました。

ギターソロは個人的にアルバム中一番よくできたと思っている。元ネタはHatebreeder。あんなに速くは弾けないのでツインギターのハモリで勝負した。この曲はソロでいきなり転調している。

歌詞全体が、先に社会になじんでしまった家族に対して自分が置いて行かれる感覚だったり、孤独死に対する悲観で溢れていて、最後には諦めて自分を粗大ゴミだと評している。

5. ラット・イン・ザ・バット

イメージ:虐待、かわいいという感情

この曲は「複雑な展開に沢山のリフを詰め込む」というコンセプトで考えていた。さらにMaster of PuppetsやPainkillerといった、重厚で複雑な構成のメタルアンセムに挑戦しようと考えた。結果、今の自分でできる中では最良のものができたと思う。

静かorゆっくりと始まるような曲が続いていたので、一気に畳みかけるような入りにしたかった。そしてその次のスライドを使ったリフはネズミが這いずり回るのをイメージしている。ここまでの曲で実はブリッジミュートをそんなに使ってないことに気づいたので、この曲ではAメロは絶対ブリッジミュートと決めていた。

中盤ではブラックメタル的なトレモロ+爆速ブラスト(実はブラックメタルはあまり聞いていないのでよくわからないのだが)を入れつつ、リフでつないでいく。

後半にはベースとクリーンギターによるスローテンポなパートがある。これはMaster of Puppetsでいうあの中間部にあたる。ここは実はゆめ2っきの「ホームル」のBGMを参考にしている。これは雨の中をひたすら右に歩いていくマップで、マップが切り替わるたびにBGMの音が重なって豪華になっていく演出がある。ゆめにっきやその派生作品はこのアルバムのルーツの一つなので、これもその要素だ。

作ってからギターソロを入れる隙間がないことに気づいたので、スローパートの最後にかぶせてみた。結果としてかなりうまくいった。ボーカルパートが一切できないままオケがほぼ完成してしまったが、それにしてはよさげなメロディができたんじゃないかと思う。

歌詞を見ると、心を病んでしまいネズミを繁殖させて殺すのが趣味になってしまった主人公が、やめたいと思いつつも依存していく様子を描いている。

歌詞についてはかなり語りがいがある。というのもここで描写されているのはインターネット上の一部の人たちを(やや大げさに)表現したものだからだ。彼らの精神を分析してみたくて作った曲でもある。あとから調べてみると思っていたのとは若干違うようだったが、この曲のような心理の人も少数派ながらいると思う。

6. シロップ

イメージ:無力感、虚無感、絶望

個人的にアルバムで一番気に入っている曲。このアルバムのほとんどの曲は曲順に作られているが、この曲だけは1曲目の次に制作された。作ってからもう2年くらい経っていることになるが、個人的時の試練に耐えている。

もともとStairway To Heaven的な「静かに始まって最後に爆発する曲」を作ってみたかったので、その要素を持ったものが作れてよかった。ミドルテンポの6/8拍子だが、内容は内省的で重くて暗い曲。

Aメロは、電子ピアノで何となく弾いたときの録音がもとになっている。イントロも同じ日の録音から。私は作曲において転調をあまり使ったことがなかったが、この曲のサビは2回も転調する。

2コーラスの後にソロ、アウトロで感情が爆発する。この2コードの繰り返しは、ほぼMetallicaのOneである。しかし6/8拍子のおかげで若干Panteraぽくもなっている。

ひたすら無力感、虚無感、絶望を歌っている。ちいさな心をシロップ漬けにして守っている。

7. いいゆめみてね

イメージ:悪夢

インスト曲。夢らしくいろいろなパートが前触れなく切り替わる感じにしたかった。クラゲという要素があるので、海をイメージした効果音やフレーズが多め。最初の音は、フリー素材サイトで見たホラー系の効果音がすごかったので音色だけ真似した。中盤のギターソロはこのアルバムで学んだことの集大成という感じ。

一番最後のアンビエント的な部分、これはゆめにっき全開だ。コードはあるマップのBGMからほぼそのままだし、アルペジオの音色も雪の世界のBGMをイメージしたものだ。これらの音色は六道のアルバムの時に作ったもの。あのアルバムのルーツもゆめにっきだったのだ。

そこにGoogleのAI音声を使ったボイスを入れている。あれはマジで凄い。そのままだと違和感もあったのでbitcrusherでめちゃくちゃ潰して使っている。AIで言うと中盤の鳴き声はVeo 3でイルカに襲われる夢を生成したときの音声である。前からAIと夢には親和性があると思っていて、ちょうどいいと思ったので積極的に使った。

ストーリー的には主人公の夢を表していて、そこで見た悪夢にそそのかされるようにして、主人公は究極の選択をする。

おわりに

アルバムの前半を完成させることができたのは、自分の中で大きな経験になったと思います。後半の曲はまだ1曲もできていませんが、アイデア自体はかなりいろいろ出ているので、ぼちぼち制作を進めていきたいです。また、作っている中で自分の好きなメタル像が段々固まってきました。次回作からはそちら方向を深化させる方向に進んでもいいかもしれません。

作っていて感じたことがあって、「良くしよう」と思った曲よりも、「これは軽く作ろう」と思った曲の方が良くなるという現象がある。一体どういうことなんだろう。永遠の謎です。

最後に、アルバム「ナタクラゲ」は全部無料で聴ける上に二次利用も自由なので皆さんぜひ聴いてくださいね~!!

ちまたのフリー音源などと違って、本当に自由です。どのくらい自由かというと、不自由になることが禁止されているくらい自由です(WikipediaやSCP財団などと同じCC BY-SAを採用しています)。