ナタクラゲができるまで 〜ド素人のバーチャル美少女デザイン論〜

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千本槍みなも@ナタクラゲ
目次

この度、ナタクラゲ/千本槍みなもの見た目が大幅にアップデートされました!

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今までは割と適当にやっていたけれど、今回は結構頑張りました。その際に苦労したことや、デザインの時の考え方などを書いていきます。

なお、この記事では基本的に技術的な解説はしません。そんなものはネットでも書店でも行けば見つかるので。また、筆者はデザインに関しては完全にズブの素人です。真に受けて恥をかいても知りません。

この記事は画像も含めすべてCC BY-SA 4.0で利用できます。一部の画像は私のサイトからとってきた方がいいかもしれません。

ナタクラゲ / 千本槍みなも

ナタクラゲ / 千本槍みなもの公式ホームページ。

ナタクラゲ / 千本槍みなもnatakurage.cc

背景

私のバーチャル美少女アバターの歴史は、前名義時代に遡ります。当時のアイコンは彩度の高い6色を使用していたため、それをモチーフとしてこのようなアバターをVroid Studioで作成しました。

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プロトタイプ

ロングヘアーと前髪ぱっつんは今まで受け継がれている要素です。これは大学の学食の「お客様の声」スペースに描かれていたアニメキャラの影響だと思います。

その後現名義になり、原色6色というカラーリングは幼稚すぎると思ったため、2色に絞りました。

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バージョン1

実際にはほぼ色違いで、マイナーチェンジの範疇にとどまっているのが分かります。

また、この頃からクラゲの意匠を導入しました。なぜクラゲなのかというと、自分を最も表す動物は何かを深夜テンションで考えた結果です。これに関しては後悔はしていないのですが、色の方はパッと思いついただけの色で、もう少し考えるべきだったと思います。

その後、もう少し顔の印象を丸くして、寂しかった腕周りを追加し、これが最初に世に出たバージョンとなるわけです。

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バージョン2

ですが、私はまだ満足できませんでした。

何が問題なのかを考えた結果、クラゲが小さすぎることに気づきます。そのため、クラゲを大きくして、触手も太く、ローポリの球の鎖のようにしました。

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バージョン3

さらに、最初からの問題だった非常に雑な服をセーラー服に変更しました。アクセントカラーを保つことで自然と調和させることに成功しました。

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バージョン3.1

根本的な問題

さて、私は根本的な問題を見逃していました。それはテーマがしっかりと決まっていないことです。

ナタクラゲという名前であるため、ナタとクラゲの要素が必要です。しかしナタは武器の方に一任できるため、本体の方は実質クラゲだけでいいわけです。

この結果、現代日本の要素=セーラー服、腕の謎の服、足のリング(実験施設のタグのイメージ)と、場当たり的にモチーフを詰め込んだ結果よくわからない感じになっていました。

さらに先述のようにシアンとマゼンタという主張が強いアクセントカラーを1:1で使用しているなど、色方面も見直したくなったのです。

これらの潜在的な問題意識は常にありました。しかし、さらに、見た目から音楽性がメタルであることをあまり連想できないということに思い至り、いよいよテコ入れが必要と考えたわけです。

メタルを担保する「死神」

さて、この活動を始める頃は私の知っている最も激しいメタルはDeathでした。しかしその後もChildren Of Bodom、Trivium、Gojira、Mayhemなどと聴いていく中で、ついにDissectionと出会います。

Dissectionは、ボーカルの人がマジでヤバい人なのですが、曲がマジでいいです。そんな中で2ndアルバムのジャケットに描かれた死神を見ていたら、こう思うようになりました。

死神を出せばメタルになる」と。

問題は、死神の要素をどうやってクラゲと調和させるかです。

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勝手に名前まで生成してきた。あと、下の方これタコじゃね?

Nano Banana Proで作ったイメージは一見するとよく見えますが、これを私の技術で3D再現しようとするとなんかコレジャナイ感。

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そもそも、死神の上からクラゲをかぶせるのって変じゃないか? むしろ死神のフードをクラゲ的に使えないか? と考えるわけです。

スティギオメデューサという福音

そんな中でスティギオメデューサの存在を思い出しました。

別名ダイオウクラゲ、学名Stygiomedusa giganteaという、深海に住む超巨大なクラゲで、ミステリアスな雰囲気が非常に良いです。(この記事を書いて初めて知ったのですが、スティギオメデューサは赤ちゃんを産むらしい。マジか)

この名義になってからクラゲのことは調べているので姿や名前は知っていましたが、これをモチーフにすると良さそうだということを突然ひらめきました。多分すべてのクラゲの中で最も死神っぽい見た目をしている気がするからです。

この時点でカラーパレットも再考する必要がありました。この時点でGemini提案の深海イメージのカラーパレットから暗い側の2色と、スティギオメデューサをイメージする2色としました。

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触手をモデリングして背中にくっつける。

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ナタの解釈変更

そもそもなぜナタクラゲなのかというと、クラゲを思いついたときに、かわいさ×攻撃性というコンセプトが浮かんだからです。なぜナタなのかは、まあ語感です。

しかし、死神というコンセプトを押し出すと、なんとなくでナタにすることに大きな問題があります。なぜなら一般的に死神の武器は大鎌だから。

しかし、ナタからの変更は改名を意味します。さすがにそれはできないので、大鎌に似ているナタがないかな~と探してみることにしました。そんなものがあるか、と思いましたが、日本にありました。

それが薙刀です。

薙刀がナタの一種なのかと言われると微妙ですが、名前にナタって入ってるからいいと思う。

というわけでそれっぽいものを作りました。海なので、柄はイッカクの角ということにしています。

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倒錯の象徴、逆さ黒形代

ここまででだいぶ完成してきたが、まだ物足りません。何かアクセサリーをつけて恐ろしさをプッシュしたい。

まず、フードの上に第三の目をつければいいのではないかと考えました。しかし、なんかしっくりこなかった(炭鉱でつけるヘルメットみたいになった)ので、首元につけました。

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でもやっぱりフードの上に何か欲しい。

メタルだと避けては通れない悪魔崇拝だなんだという話(その9割は誤解に基づくものだが)をデザインに取り入れ、逆さ十字でも入れとけばいいか、と考えました。

いや、待てよと。

まずかなり安直であるのと、どうやら逆さ十字そのものはアンチキリスト以外の何物でもない、というわけではないらしいのです(もともとイエスの弟子聖ペトロに由来する由緒正しきシンボル)。あと、そういう西洋的な文脈を知識として知っていても肌感覚ではない自分がそれをやることに抵抗があったのです。

だとすれば、日本的な要素を入れればいいのではないか? と思い至ります。せっかく薙刀や制服という要素を残したのでね。

こういう発想は日本のメタル界隈だとよくやるらしい。人間椅子とかがまさにそうですね。日本的な要素と言っても、単に日本文化の美しさを賛美するのではなく、日本的世界観を利用しつつ、デスメタルやブラックメタル的な倒錯した価値観を表現するというのはどうかと考えたのです。

そこで日本で明示的に宗教に対する反発を表現するシンボルがあるかGeminiに聞いたが、日本は多神教の都合上そういうのはない(本当かは知らないけど)らしいのです。

しかし解答に「形代」と「穢れ」というキーワードがあり、これがヒントになりました。考えてみると、日本文化において「穢れ」は非常に頻出ワードで、しかもかなり忌み嫌われているものです。

つまり、あえて穢れを身に着けることで「穢れを崇拝する」というある種の倒錯的な価値観を演出することが可能になるのではないか? そんなアイデアがおぼろげながら浮かんできたんです。

それが形代でした。とりあえず形代の形を作って、頭につけました。ノリで逆さにして、色もカラーパレットの中で一番良かった黒にしました。

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形代を黒くしたり逆さにすることについては、何かよく知られた象徴的意味があるわけではなさそうです。しかし、日本では伝統的に「黒」や「逆さ」は死を強く連想させます。さらに呪術的なイメージも想起させ、デス・ブラックメタル的な世界観にはぴったりはまりそうです。

また、その見た目は偶然にも逆さ十字のようにも見えます。

完成品

というわけで、改めて完成したのがこちら。

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今までに比べて大きく変化したのが分かります。今までのデザインが透明感とポップさを押し出しているのに対して、新しいデザインはダークでミステリアスな感じがあります。これこそ私が求めていたものでした。

コンセプトは以下の3つです。

メタル:死神のダークでミステリアスで危険なイメージ

深海:スティギオメデューサ。ブラックメタル的な冷たさとも重なる

日本:薙刀、形代、セーラー服。伝統も現代的なのも

正直これが良いのか悪いのかは自分では判断できません。ただ自分としてはかなりいい感じになったのではないかと思っています。

実際にここに書いたこと以外の試行錯誤もしてます。デザインにあたってコンセプトやカラーパレットの提案など、AIの力も借りました。しかしあくまで判断材料にとどめ、すべては「自分の納得感」という最も重要な原理に支配させました。

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博物館みたいですね

今までの姿をすべて横に並べてみました。こう見るとここで挙げなかったポイントも結構変化しているように感じます。今の姿がやはり一番変わりましたね。

これからはこの姿で音楽や動画制作、執筆などしていきたいので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!